中医学

小豆の効能

今日は鏡開きで、お昼に鏡餅を神棚から下ろして、お汁粉にして頂きましたdelicious

そこで今回は、このお汁粉に使われる「小豆」の効能を、新年1回目の中医学的食養生として解説いたしますpencil

 

〔小豆/赤小豆(セキショウズ)〕

性味は平性、甘・酸味。

効能は、利水消腫(利尿作用がありむくみを解消する)、解毒排膿(体の内外の毒素を消し膿を排出させる)、寛腸理気(腸を緩やかにして気の停滞を通行させる)、調経通乳(月経不順を治したり産後の母乳の出を良くする)など。

主な適応症は、むくみ(とくに腎炎や栄養不良によるもの)、月経不順、痔出血、虫垂炎の腹痛、下痢、産後母乳の出が悪い、じんましんなど。

栄養学的にはリンが多いです。リンはカルシウムや鉄分の吸収を妨げやすいので、ホウレンソウやレバーなどと一緒に食べないよう気をつけてください。

また利尿作用が強いので、やせて体内の水分が少ない人(のどがよく渇いたり肌が乾燥している人)や、もともと頻尿の人は食べないほうがよいです。豆類は消化もしにくいので、消化不良のある人も控えめにしましょう。

【参考文献】

  梁晨千鶴(著):東方栄養新書,メディカルユーコン,2005

  夏翔・施杞(主編),丁鈺熊・銭永益・趙陽(副主編):中国食養大全,上海科学技術出版社,2006  

お酒の効能

今年も残り半月、忘年会シーズンですねbeer 年が明ければ新年会もあり、お酒を飲む機会が増える時期ですupwardright 最近はノンアルコール飲料も種類が増え、飲まない人・飲めない人も宴席をより自然に楽しめるようになってきましたcherry

飲めない人が無理に飲まされたり、飲める人でも適量を超えたりということはもちろん良くありませんが、楽しく飲める範囲ならばお酒は「百薬の長」、心身の健康に役立つものですbottle

 

中医学の食養生では一般の性味を、温・熱性、甘・苦・辛味としており、その効能は散寒祛風(寒気を駆除し風邪〈ふうじゃ〉を消し去る)、温陽活血(体を温め血行を促す)、舒筋活絡(筋肉を緩め経絡を通じさせる)、利脈止痛(血流を良くして痛みを止める)などです。また体の緊張を解くことによって、精神的にもリラックスできます。

お酒の種類によっても、少しずつ性味や効能に違いがあります。以下に大まかな解説をしましょうdown

〔ビール〕 涼(平)性、苦・甘味。健胃消食(食欲を促し消化力を高める)、清熱解暑(体にこもった余分な熱を冷まし暑気当たりを解消する)、利湿(利尿作用)、強心(心臓の働きを強める)など。

〔日本清酒〕 温性、甘・苦・辛味。活血散瘀(血行を良くし滞りを解消する)、止渇除煩(のどの渇きを止めストレスを除く)など。

〔ワイン〕 熱性、甘・辛・渋味。暖腰腎(腎を暖め腰痛を収める)、駐顔(老化を防止する)、耐寒(寒さに耐える力をつける)など。近年、ポリフェノールで注目されていますね。

〔焼酎〕 温性、辛・甘味。調胃(冷えた胃の機能を回復する)、散寒、和血通経(血行を促し生理不順を解消)、舒筋活血など。

〔紹興酒(黄酒)〕 温・熱性、辛・苦・甘・酸味。温通気血(体を温めて気血を通じさせる)、健胃消食、舒筋活血、安神強心(精神を安定させ心臓の機能を強化する)、養血美顔(血液の生成を促進し顔色を良くする)など。

 【参考文献】

  梁晨千鶴(著):東方栄養新書,メディカルユーコン,2005

  夏翔・施杞(主編),丁鈺熊・銭永益・趙陽(副主編):中国食養大全,上海科学技術出版社,2006 

 

このように見ると、やはりビールは夏のもので、冬でも「とりあえずビール」というのは控えたほうがよさそうですねcoldsweats01 またこれらの効能は適量の場合であって、くれぐれも飲みすぎて健康を損なうことのないよう、上手に付き合いましょうwine

寒邪について

12月に入るなりぐっと冷え込んで、気候が一気に冬本番になりましたsnow 今日は日中暖かくなりましたが、この冬は例年より寒くなるようで、今からしっかり防寒対策をしておかなければなりませんねspa

以前取り上げたことのある「六淫」(風・寒・暑・湿・燥・火、6月8日付ブログ参照)のうち、今の時季に主となるものは、言うまでもありませんが「寒邪」です。ふだん私たちが生活の中で感じる「寒さ」とほぼ同じ感覚で捉えていただけるものですが、中医学独自の考え方もあります。

寒邪は人体の陽気を損傷して、その働きを低下させ、気に伴って血も滞るため、「気滞血瘀(きたいけつお)」という状態になりがちです。9月25日付「頭痛の分類(東洋医学編)」でも触れた「不通則痛」、通じなければ痛みが生じるという法則により、寒邪に侵襲されると体のどこかに痛みが出現したり、筋肉のひきつりが起こったりします。六淫のなかで、疼痛疾患にもっとも関連が深いのが寒なのです。

なお寒邪による痛みは、温めると軽くなり冷やすとひどくなるという特徴がありますので、そのような場合は当然、冷やさないように気をつけてくださいjapanesetea

【参考文献】

 神戸中医学研究会(編著):基礎中医学,燎原,1995

 高金亮(監修),劉桂平・孟静岩(主編):中医基本用語辞典,東洋学術出版社,2006

祇園でうなぎ料理

祇園.JPG昨夜は京都・祇園で、十数年来ひいきにしている歌舞伎役者さんのお食事会へ行ってきましたshine 朝からあいにくの雨でしたが、京都に着いたころには幸いほぼ止んでいましたsprinkle      〔写真は花見小路の入口→〕

会場は「江戸前うなぎと京おばん菜割烹」のお店で、久々に贅沢をいたしましたcoldsweats01 秋の土用(立冬の前の18日間)も過ぎ、丑の日でもありませんが、うなぎは精がつくので、かぜの治りかけには持って来いかもしれません。ここで、うなぎの食養的知識を。

 

〔鰻〕

性味は平(微寒)性、甘味。

効能は、補虚益血(気血を滋養する)、祛風湿(足腰の重い痛み・しびれに効く)。

主な適応症は、羸痩(るいそう=疲れてやせること)、肺炎や肺結核による空咳、煩躁(はんそう=情緒不安定でイライラすること)、食欲不振、神経衰弱など。

栄養学的にはタンパク質、脂肪、カルシウム、ビタミンA・D、DHA、EPAなどが豊富です。カルシウムとビタミンDは骨粗鬆症の予防に、ビタミンAは視力の改善やかぜ予防に、DHAとEPAは動脈硬化の予防にそれぞれ役立ちます。

栄養は豊富ですが消化しにくいため、胃腸が弱い人や消化不良を起こしている時は控えめにしましょう。タンパク質が多いので、腎臓の働きが低下している人も控えたほうがよいです。また胎児の障害を引き起こす恐れがあるため、妊婦の人は食べないようにしてください。

【参考文献】

 梁晨千鶴(著):東方栄養新書,メディカルユーコン,2005

 夏翔・施杞(主編),丁鈺熊・銭永益・趙陽(副主編):中国食養大全,上海科学技術出版社,2006

 

やはりたまにしか食べないようなものは、ほどほどが良いようですね。今日からまた普段どおりの粗食に戻りますriceball

心について

さて、五臓の解説で最後の一つとなりました(しん)について、その主な生理機能をご紹介しますheart02

五行では火に属し、現代医学でいう心臓と重なる部分もありますが、また中医学特有の考え方も含まれます。心は人体の生命活動の一切を統帥し主宰することから、一国の君主になぞらえ「君主の官」と呼ばれますcrown

 

①血脈を主(つかさど)る‥‥‥心が脈管内で血液の運行を推し進める機能を示します。「血脈を主る」とは「血」と「脈」の両面が含まれています。「血を主る」には二つの意味があり、一つは血の生成で、脾胃が運化した(運び作った)水穀の精微(栄養物質)を心の温める作用によって血に作り変えることであり、もう一つは血の運行で、心気の推し進める作用によって全身を絶え間なく循環させることです。「脈を主る」にも二つの意味があり、一つは心の拍動によって脈管内で血が運行すると同時に心と経脈が連結していることを指し、もう一つは心気が暢達して(のびのびして)はじめて脈動が通じることです。つまり、心が全身の脈管内の血液運行をコントロールしているのです。 

②神明(しんめい)を主る‥‥‥「神明」は精神・意識・思惟などを指し、心が精神思惟活動を主宰していることを示します。「心は神を蔵す」ともいわれます。心の機能が正常で気血が充実していれば、意識は明瞭で思考も鋭敏です。心の病変では精神・意識・思惟活動が異常になり、焦燥感・驚きやすく動悸がする・睡眠が浅く夢が多いなどの症候が現れ、重篤になると昏睡・昏迷などの意識障害や認知障害・幻覚・精神異常などが起こります。

③舌に開竅(かいきょう)する‥‥‥「舌は心の苗たり」ともいわれます。舌は五臓のいずれとも関連がありますが、心との関係が特に密接です。それは心経の脈絡が上行して舌に連なるからであり、心の気血が舌体の色沢と形態を保持するとともに生理機能を発現させるので、舌を観察することにより心の状態を知ることができます。心の機能が正常であれば、舌質(舌の色や形態)は紅く潤いがあり、柔軟でよく動き、味覚も敏感で、言葉が滑らかです。心の失調があると舌の色調が変化したり、動きや味覚に異常をきたします。

④喜を主る‥‥‥心の生理機能は五志(怒・喜・思・憂・恐)のうちの「喜」と深い関連があります。喜は一般的にいえば血脈を主るという心の生理機能にとって有益ですが、喜楽が過度になると心神を損傷することになります。心気の異常が甚だしいと喜笑が止まなくなり、逆に心気が不足すると悲傷しやすくなります。ただし、心は「神明を主る」ので、五志のいずれが過度になってもすべて心神を損傷します。

不眠(失眠)について‥‥‥中医学では不眠の原因を心身疲労やストレス、飲食の不摂生などいくつかの原因に分類していますが、それらによって心が養われなくなることにより睡眠障害が起こると考えています。

【参考文献】

 神戸中医学研究会(編著):基礎中医学,燎原,1995

 高金亮(監修),劉桂平・孟静岩(主編):中医基本用語辞典,東洋学術出版社,2006  

 

今回で一応、五臓すべての解説をさせていただきました。実際の臨床では、それぞれの臓腑が単独で病を発生させることは少なく、ほとんどは複数の臓腑が関連しあって様々な症状を引き起こします。一つ一つの症候をよく観察・問診して、原因がどこにあるのか、おおもとは何なのかを考察しながら治療を進めるわけで、一生勉強が必要な学問であることを痛感しますcoldsweats01

仮眠・睡眠

このところ用事が立て込んで寝不足気味だったせいか、今日は昼下がりに居眠りをしてしまいましたgawk 近年の研究で、15~20分程度の昼の仮眠は午後の作業効率を高め、健康にも良いといわれていますが、私は30分以上うとうと。。。でもスッキリしましたup

中医学では、睡眠にもっとも重要な役割を果たす臓腑はですheart01 ほかにも肝や脾、腎などもかかわってきますが、最終的には心の状態が睡眠の質の良しあしを決定します。これまで肝・脾(・胃)・腎・肺と解説してきましたが、五臓のうち残る一つ「心」について、次回ご紹介いたしますsoon

柿の効能

今日は近畿地方に「木枯らし1号」が吹いたそうですmaple これから冬型の気圧配置の影響で、しばらく平年より寒い日が続きそうですので、皆様かぜにご注意をdanger

さて昨日は、今年初めて柿を頂きましたnote よく熟して外側が一部ジャムのように軟らかくなっていて、あっという間に1個ペロリと食べてしまいましたdelicious

今月20日付のブログで秋に食べるとよい物をご紹介しましたが、この中に柿も入っています。中医学的にどんな効能があるのか調べてみましたbook

 

〔柿〕

性味は寒性、甘味・渋味。渋味は収斂(しゅうれん)の働きがあり「固める」作用があるため、便秘や血行不良の人には不向きです。

効能は、潤肺生津(肺を潤し津液を生じさせる=咳止め)、清熱止血(熱を冷まし出血を止める)、渋腸健脾(腸を渋らせ脾を健やかにする=下痢止め)、解酒毒(アルコールの分解を促し二日酔いを防止する、ただし樹上で熟した物のみ)。

主な適応症は、肺熱による咳嗽、脾虚による下痢、喀血(肺や気管支・気管よりの出血)、血便・血尿、高血圧、痔疾など。

栄養学的には糖質(滋養作用)、ビタミンC(抗酸化・抗老化・降圧作用や抵抗力を高める作用)、タンニン(渋味成分、抗酸化・抗老化・降圧作用)、ヨウ素(甲状腺機能低下症に適応)などが豊富です。

なお寒性であるため、冷え症の人やかぜで寒気がする時、寒冷による下痢の時は控えましょう。またタンニンは酸・鉄・カルシウムと結合して沈殿しやすいので、胃酸の多い空腹時は避け、鉄分・カルシウムの多い食材と同時に食べてはいけません。サツマイモなどのイモ類も胃酸を生じやすいので、一緒に食べることは避けてください。ヨウ素を多く含むので、甲状腺機能亢進症の人も禁忌です。

ちなみに干し柿にすると寒性が和らぎ、涼性~平性になります。

 

【参考文献】

 梁晨千鶴(著):東方栄養新書,メディカルユーコン,2005

 夏翔・施杞(主編),丁鈺熊・銭永益・趙陽(副主編):中国食療大全,上海科学技術出版社,2006  

秋の食養生

今日は秋の土用入りですmaple 8月6日付ブログでも書きましたが、立春・立夏・立秋・立冬それぞれの前18日間が土用ですので、今日から18日後には立冬……早いですね~dash

さて、夏の食養生(7月9日付)と同様、秋の食養生もご紹介したいと思います。中医学では秋の気候の特徴は「燥」、つまり乾燥とされていますが、日本の場合は「秋の長雨」(秋雨前線)や台風シーズンとも重なるので、大陸とはやや異なります。しかしながら、夏に比べればぐっと湿度が下がっていますので、やはり乾燥対策は必要です。

秋は五行では、対応する五臓は(10月2日付)ですので、体の中でも特に呼吸器や皮膚への乾燥対策が中心となります。そのため秋の食養生の原則は「肺を滋養し、津液を増やして体を潤す」ことです。代表的な食物を以下に挙げます。 

 

〔秋に食べるとよい物〕 品目(五性/五味)  ※五性・五味には文献により多少の異同があります。

ピーナツ(平/甘)、ギンナン(平/甘・苦・渋)、松の実(微温/甘)、ヤマノイモ(平/甘)、サツマイモ(平/甘)、ニンジン(微温・平/甘・苦)、ダイコン(涼・平/辛〈生〉・甘〈加熱〉)、ホウレンソウ(涼/甘)、ハクサイ(涼・平/甘)、ノリ(寒/甘・鹹)、アンズ(温/酸・甘)、カリン(平/酸・渋)、ブドウ(平/甘・酸)、ミカン(平/甘・酸)、ユズ(寒/甘・酸)、イチジク(平/甘)、レモン(平/酸・甘)、ビワ(平・微涼/甘・酸)、ナシ(涼・寒/甘・微酸)、柿(寒/甘・渋)

特にピーナツや松の実、アンズ、ナシなどは空咳に効きます。果物はのどの渇きを潤す作用があり、基本的に旬のものを選ぶとよいですが、寒性のものは食べすぎると体を冷やしますので、適度に取りましょうapple

 

【参考文献】

 梁晨千鶴(著):東方栄養新書,メディカルユーコン,2005

 夏翔・施杞(主編),丁鈺熊・銭永益・趙陽(副主編):中国食療大全,上海科学技術出版社,2006 

肺について

もう10月に入り、朝晩はめっきり秋の涼しさになりましたhorse 長引いた猛暑の疲れが出てくるこの頃、軽いかぜ引きさんもちらほら見受けられますeye

今回は、秋と同じく五行の金に属する五臓のについて、主な生理機能を解説いたします。これまでご紹介した肝、脾、腎と同様、現代医学的な臓腑と重なる部分もあれば、中医学独特の考え方も併せ持っています。

 

①気を主(つかさど)り、呼吸を司る‥‥‥「気を主る」とは、「呼吸の気を主る」と「一身の気を主る」という二つの面があります。「呼吸の気を主る」というのは、肺の呼吸運動を指しています。肺は自然界の清気を吸い込んで充満し、体内の濁気を吐き出すと空虚になり、呼吸を司る運動器官であり気体交換の場でもあります。「一身の気を主る」というのは、全身の気を維持し調節する機能を指しています。肺が吸入した清気は、脾胃が吸収した水穀の精微および腎精から生じた腎気と合して「宗気」となり、これが肺から全身に散布され、各臓腑器官の正常な生理活動が保たれます。

②宣発・粛降を主る‥‥‥「宣発」とは外向き・上向きに発散・散布することです。脾が転送した水穀の精微を肺が全身に散布し、皮毛(⑤参照)にも達して衛気(えき=体表を保護し外邪の侵入を防御する気)を行き渡らせることによって汗を体外に排出します。「粛降」とは清潔にする・下降するという意味です。肺は気道を清浄に保って清気を吸入し腎に下納(下ろして納める)させ、また散布されて代謝された津液である廃水を膀胱へ下行させます。

③水道を通調する‥‥‥「水道」とは水液代謝の経路、「通調」とは疏通・調節するという意味で、これは②の宣発・粛降作用による機能です。肺は宣発作用によって津液や水穀の精微を全身に散布するとともに、汗孔(汗の出口)の開閉を通じて汗の排泄を調節します。また肺は粛降作用により、代謝された水液を膀胱に送り、尿を生成して体外に排出します。このことから、「肺は水の上源たり」「肺は行水(こうすい)を主る」ともいわれます。

④百脈を朝(ちょう)し、治節(ちせつ)を主る‥‥‥「朝」は集めて送り出すという意味で、「百脈を朝す」とは全身の経脈がすべて肺に集まり、肺での吐故納新(古きを吐き新しきを納める、つまりガス交換による新陳代謝)を経て、宗気の栄養を得た血液が再び全身に循環することを示しています。「治節」とは管理・調節するという意味で、「治節を主る」とは肺の主な生理機能を包括的に説明したものです。肺が呼吸運動を調節することで呼吸が規則的に行われ、同時に全身の気機(昇降出入)が正常に行われて血液の循環も維持され、津液の代謝も管理・調節されます。このように全身の気・血・津液の生成や排泄は、すべて肺の治節作用と密接に関連しているのです。

⑤皮毛を主る‥‥‥「皮毛」は皮膚・汗腺・うぶ毛などの組織を含む全身の表(身体の最外層)のことで、汗を分泌し、皮膚を潤し、外邪の侵襲を防御する機能をもちます。皮毛は肺が輸送した水穀の精微から栄養を供給されています。また肺は呼吸を司り、皮膚の汗孔の開閉によって皮膚呼吸も調節するので、汗孔は「気門」とも呼ばれます。したがって肺気が不足すると、皮毛が乾燥してつやがなくなり、外邪を防御する機能(衛気)も低下してかぜを引きやすくなります。衛気が不足して汗孔の開閉機能が低下すると、自汗(運動や発熱などがないのに自然に汗が出る)や無汗(出るべき汗が出ない)が起こります。

⑥鼻に開竅する‥‥‥鼻は肺の門戸で、呼吸の通路であるほか、肺気が嗅覚を主りにおいを弁別することを示しています。外邪はしばしば鼻から肺に侵入して、肺気を失調させ、鼻閉・鼻汁・嗅覚減退・嗄声(させい=声がかれる)・呼吸困難などの症状が現れます。

⑦憂と悲を主る‥‥‥肺の生理機能は、憂悲(憂愁と悲傷)に密接な関係があります。この二つの情動はやや異なりますが、人体の生理活動に与える影響はほぼ同じです。過度の憂愁や悲傷は気を消耗させ、肺は気を主るために憂と悲は肺を傷つけやすいのです。また逆に肺気が虚していると、憂愁や悲傷が生じやすくなります。

【参考文献】

 神戸中医学研究会(編著):基礎中医学,燎原,1995

 高金亮(監修),劉桂平・孟静岩(主編):中医基本用語辞典,東洋学術出版社,2006

 

 秋に物悲しくなるのは、乾燥した空気のせいなのでしょうか。。。weep

頭痛の分類(東洋医学編)

前回は現代医学からみた頭痛の分類をご紹介しましたので、今回は中医学的分類ですpaper

まず、頭痛に限らず「痛み」について、中医学では「不通則痛、通則不痛」という原則があります。書き下すと「通じざれば則ち痛み、通ずれば則ち痛まず」となりますが、これは経絡の気血の運行が障害されるとその部分に痛みが発生し、運行が回復すれば痛みはなくなるという意味です。そのため治療においては気血を順調に巡らせることを目標に、足りないもの(虚)は補い、過剰なもの(実)は取り去るように、手技を工夫し同時に生活指導もします。

頭痛の場合も、痛む部位や性状、増悪(症状がひどくなる)・寛解(症状が落ち着く)因子などから病型を判断し、治療方針を決めていきます。中医学での分類は何種類かありますが、病因別では①外感頭痛と②内傷頭痛とに分かれます。

外感頭痛‥‥‥外邪を感受して起こる頭痛。特徴的な症状は、頭痛が持続して止まない、発病は比較的急激であることです。主な外邪によるものを以下に挙げます。

 a.風寒頭痛‥‥‥風寒の邪気を感受して起こります。症状は、頭痛が項背(うなじから背中)にまで及ぶ、悪寒、悪風(風に当たるのを嫌がる)、関節の痛み、鼻閉(鼻づまり)、サラサラの鼻水が流れる、口の渇きはないなど。

 b.風熱頭痛‥‥‥風熱の邪気が人体を侵すことで起こります。症状は、頭が張って痛む、発熱、悪風、鼻閉、濁った濃い鼻水が流れる、顔面紅潮、目の充血、口が渇いて水を飲みたがる、便秘、尿が濃くなるなど。

 c.風湿頭痛‥‥‥風湿が人体を外襲(外から襲う)することや、風邪(ふうじゃ)が侵襲して湿濁(濁った水液)が身体の上部を覆って起こります。症状は、頭が重く沈むように痛む、頭を布で包んでいるような感覚がある、体が重だるい、胸苦しい、食欲不振、吐き気、排尿困難、下痢など。

内傷頭痛‥‥‥臓腑機能の失調や気血不足、痰湿瘀滞(濁った水液が停滞する)が原因となって起こる頭痛。特徴的な症状は、発病が緩慢で頭痛は起こったり消えたりし、臓腑機能の失調症状が伴います。主なものは以下のとおりです。 ずずとくちょう消えたりだいひょ

 a.肝陽頭痛‥‥‥肝陽(肝の陽気)が上亢(じょうこう=上りたかぶる)して起こります。症状は、めまいを伴う頭痛、頭痛の多くはこめかみや頭頂部に起こる、イライラして怒りっぽい、熟睡できない、顔面紅潮、口が苦い、脇腹が張って痛むなど。(※肝については6月22日付ブログ参照)

 b.腎虚頭痛‥‥‥腎が虚しているために髄海(脳)が不足して起こります。症状は、空虚感を伴う頭痛、めまいがしてクラクラする、耳鳴、腰や膝がだるく力が入らない、男子では遺精(性行為外で不随意に精液を漏らす)、女子では帯下(おりもの)など。(※腎については9月1日付ブログ参照)

 c.血虚頭痛‥‥‥血虚のために上部(頭部)に栄養を供給できなくなって起こります。症状は、頭痛が長く続いて絶えない、めまいがしてクラクラする、顔面が白くむくむ、だるさなど。

 d.痰濁頭痛‥‥‥痰濁(水液代謝障害によって形成される粘っこく濁った物質)が頭部を覆って起こります。症状は、頭痛に伴って頭がボーッとする、頭重感、胸苦しい、胃がもたれる、吐き気、痰を吐くなど。

 e.瘀血頭痛‥‥‥瘀血(おけつ)とは滞った血のことです。頭部の外傷や、長期にわたる頭痛によって、瘀血が停滞して起こります。症状は、頭痛が長期間治らない、刺すような痛み、痛む部位は固定して移動しない、顔面は黒ずんで暗いなど。

【参考文献】

 高金亮(監修),劉桂平・孟静岩(主編):中医基本用語辞典,東洋学術出版社,2006

 

細かい説明は省かせていただきましたが、実際にはこのほかに頭痛の起こる部位(前頭・側頭・後頭など)によっても区別し、治療方針を立てます。現代医学の場合と同様、人により複数の要因が絡み合っていることもありますので、発症から現在までの経緯をお聞きしながら優先順位を決め、少しでも早く患者さんの苦痛が楽になるよう施術に当たっていますdash