「肝」の解説をする前に、まず中医学の理論体系の基本となる「陰陽学説」と「五行学説」からご説明しましょう
陰陽学説と五行学説は、いずれも元は中国古代の哲学理論ですが、古人が医療に取り入れて、人体の生理機能を把握したり、診断・治療の指針としたり、独特の発展を遂げました。両者を併せて「陰陽五行学説」と呼ぶこともあります。今回は陰陽学説をご紹介します。
陰陽は、世界のあらゆる物事や現象を陰と陽に分類する考え方です。たとえば陰に属するのは寒冷・下降・静止・衰退などで、陽に属するのは温熱・上昇・運動・亢進などです。この両者は対立したり消長したりしますが、あくまで相対的なものであり、純然たる陰や純然たる陽は存在しません。相互に対立しながらも相互に依存する関係です。陰の中にも陽が含まれますし、陽の中にも陰が含まれます。
←これは夜の道頓堀です。夜は陰に属しますが、明るく照らされた看板は陽です。夜の闇と比較した場合、この看板は陽といえますが、看板のみで見ると、社名のある上部は陽(陽中の陽)、ランナーの足がある下部は陰(陽中の陰)となります。看板の表面においても、照明のついている部分は陽ですし、ついていない部分は陰です。
このように、陰陽はどこまでも細かく分類できます。ちなみに夜が明けて日が昇れば道頓堀は陽となりますし、看板の照明が消えれば陰です。陰の看板の上部は陽(陰中の陽)、下部は陰(陰中の陰)。。。きりがありませんね。
〔中医学での応用例〕
人体では腹が陰、背が陽。(←動物のように四足の姿勢になった時、太陽の当たる背中が陽、当たらない腹部が陰という考えからです。)/寒熱では寒が陰、熱が陽。/気血津液では気が陽、血と津液が陰。(←形のある物質は陰、形のない機能は陽という考えからです。)/臓腑では臓(実質器官)が陰、腑(中空器官)が陽。
ごく大雑把な説明になりましたが、実際の診断・治療においては、「陰陽の調和」を重視します。どちらかに偏っていれば、相対的な平衡を保つように、過剰なものは減らし、足りないものは補うようにします。熱があれば冷まし、冷えがあれば温め、停滞したものは動かし、動きすぎているものは本来の居場所に戻します。
次回は五行について。