肝について

遠回りしましたが、6月14日のブログで触れた「肝」について解説いたしますspade

中医学では肝・心・脾・肺・腎をまとめて「五臓」と呼びます。この「臓」とは、いったいどんな概念でしょうか。

人体の臓腑の生理機能と病理変化およびその相互関係は「臓象学説(蔵象学説)」に示されています。この学説は、古代の解剖の知識に基づいて臓腑・器官・組織を命名し、長期間の観察や数多の臨床経験により総合的な分析を加え、それぞれの生理機能を推測して導かれたものです。中医学でいう臓腑とは、単に解剖学的な臓器を指すだけでなく、その果たす機能とそこに現れる病理変化をも含んだ概念なのです。

臓象学説では、五臓とは人体の生命活動の中心であり、精神や意識の活動は五臓に帰属するものと見なされます。五臓に六腑(胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)が協力することによって人体の各組織器官は繋がれ、1個の統一された総体が構成されるのです。

その五臓の一つであるの主な生理機能は以下のようになります。

①疏泄(そせつ)を主(つかさど)る‥‥‥「疏」は疏通、「泄」は昇発(上昇・発散)・宣泄の意味です。肝は全身の気の巡りを良くし、のびやかにさせます。この機能が異常になると、胸や脇腹が張って痛んだり、胃腸の具合が悪くなったり、精神的にイライラあるいは抑うつ状態になったりします。

②血を蔵す‥‥‥肝は血液を貯蔵し、人体各部の血流量を調節する機能を持ちます。この機能の異常には「肝血不足」(虚)と「肝不蔵血」(実)があります。虚の場合は、目の乾燥やかすみ、筋肉のひきつり、四肢のしびれ、女性では月経血量の減少・無月経などが起こります。実の場合は、吐血、鼻出血、月経過多、不正性器出血などの出血傾向が現れます。

③筋を主る‥‥‥「筋」とは筋膜や腱・靭帯のことで、関節の運動をコントロールする組織です。筋は肝血の滋養作用によって維持されます。もしこの肝血が不足すると、筋力が衰え、筋肉のひきつりや手足の震え・しびれなどを引き起こします。

④目に開竅する‥‥‥肝の機能は目に反映されます。肝は蔵血を主り、肝の経脈(気血が運行する通り道)は目に上るので、視力は主に肝血の滋養に依存しているのです。②と同様に、虚実それぞれの異常により症状が現れます。虚ではかすみ目や夜盲、実では目の充血・腫脹・疼痛などが起こります。

⑤怒を主る‥‥‥肝は「五志(怒・喜・思・憂・恐)」の中の「怒」と強い関連性があります。人が強い怒りを覚えると、気血が上逆(のぼせる意)し、めまい・頭痛・顔面紅潮・目の充血などの症状が現れます。この症状は、肝が疏泄機能を失ったときの病理変化に似ているので、「怒」は肝に帰属すると考えます。

【参考文献】

 神戸中医学研究会(編著):基礎中医学,燎原,1995 

 高金亮(監修),劉桂平・孟静岩(主編):中医基本用語辞典,東洋学術出版社,2006

 

いつもながら「ざっくり」した解説で恐縮ですが、このような中医学の奥深さに改めて感じ入りますcatface